ヨーヨーはなぜ回るのか?

原文:yama@18
校正:eagle0wl
はじめに

一般的なスリープ(空転)が可能なトランスアクセル式(ベアリング内蔵型)ヨーヨーは、必ずボディの内側に「レスポンスシステム」と呼ばれる、摩擦を与える機構が存在します(例外として、この機構が無くともボディがその役割を果たす場合もあります)。レスポンスシステムによって、ヨーヨーは回転することができるのです。

本章では、ヨーヨーの基本であるレスポンスシステムについて考察します。



レスポンスシステムの必要性

Fig.1
レスポンスシステムの位置

レスポンスシステム (Fig.1) の機能はこの2点です。

・ヨーヨーを戻すための抵抗
・投げ下ろす(スロー)際、ヨーヨーに回転を与えるための抵抗

では、レスポンスが無いとどうなるのでしょうか?

・スリープしているヨーヨーをひいても戻ってこない。
・投げ下ろす際に、回転を与えられない。

レスポンスが無くなれば、余計な抵抗が無くなるため、長く回り続けるヨーヨーができるだろうと思った方もいるかもしれません。ですが、回転を与えるという最も重要な機能も合わせ持っている以上、レスポンスを無くすわけにはいきません。



スリープしているヨーヨーが戻る理由

Fig.2
ヨーヨーを軽く引くことで糸にたるみが生じ、レスポンスに接触することでヨーヨーは戻るきっかけを得ることができる
スリープするトランスアクセルのヨーヨーが戻ってくるのはなぜでしょうか。なんとなくイメージしてる人もいると思いますが、改めて具体的に説明してみます。

・糸がレスポンスに触れるから戻ってくる
・レスポンスに触れない限り戻ってこない

なぜ糸がレスポンスに触れるのでしょうか。糸の張力と、ヨーヨーの動きのバランスが保たれている間は、糸はギャップ(溝)内でまっすぐ伸びた状態になっているので、レスポンスに触れることはありません。

糸とボディの張力のバランスが崩れたとき、糸にたるみが生じ、たるんだ糸がレスポンスに触れることでヨーヨーは戻ります(リターン)(Fig.2)




では、それぞれの局面でレスポンスがどのように機能しているのか考えてみましょう(Fig.3)

Fig.3
スロー時、スリープ時、リターン時での糸とレスポンスの状態

スロー時

糸がレスポンスに当たっています。巻かれている糸が伸びるとき、糸とヨーヨーの摩擦で回転が生じます。逆に糸がヨーヨーのレスポンスに当たってないと回転しません。ここでの摩擦抵抗が強ければ強いほどヨーヨーは回転します。

レスポンスが悪いと、スローしても回転を与えられない、いわゆる「スカる」という状況になります。

スリープ時

レスポンスと糸が触れていない状態です。触れてしまうと抵抗が生じ、回転力が奪われていきます。

リターン時

レスポンスと糸が触れることで、レスポンスの摩擦抵抗によってヨーヨーが巻き戻されます。摩擦抵抗より回転力のほうが大きい場合は、回転力を奪うだけで帰ってこないこともあります。

回転力が少なすぎる場合は、当然の事ながら戻ってきません。ヨーヨーを始めて間もない頃は、ヨーヨーがなかなか帰ってこずイライラすると思いますが、そのほとんどは、単純に回転力の少なさが原因です。

Fig.4
スリープ時のみ収納される理想のレスポンスシステム

以上を踏まえると、スロー時とリターン時のみ糸と触れやすく、スリープ時には触れにくいレスポンスが、最も優れたレスポンスとなります。プレイ中に任意でレスポンスを出し入れできるのが理想系(Fig.4)ですが、ギミックの重さを考えるとそういうわけにもいきません。

スリープ時間だけを競うのであれば、レスポンスを収納または外れる仕組みにすれば、好記録が望めるかもしれません。



近年考案されたレスポンスシステムである「レセス」や「YOリング」が、どうしてバインドしたときだけ戻ってくるか、なんとなくイメージできたでしょうか?




バインドとは?

YOリングの出現以降、技術として多用されるバインドですが、近年の代表的な基本テクニックになっています。ここで「バインド」をちょっとおさらいしてみましょう。

・YOリングなど、特定のきっかけを与えない限りもどらない状態のヨーヨーを強制的に戻すためのテクニック
・任意のタイミングでヨーヨーを戻すことができるので、スリープが続く限界までプレイを続けることができる
・バインドは、YOリング・レセスなどのレスポンス部分が埋没した構造になっているヨーヨーで有効

※YOリング・レセスについては後述します。


バインドのように、ボディ内で積極的にたるみを作る作業を行うと、普段触れにくいレスポンスでも無理やりレスポンスに当てることができるので、戻りやすくなります(Fig.5) (Fig.6)

Fig.5
バインド時の糸のたるみ

Fig.6
回転方向によって、糸のかけ方を変える必要がある




ループ時の状態

カウボーイのロープのように、楕円の軌道を描いて回す「ループ」軌道の伸びきる所までは、糸の張力のバランスが取れています。軌道の先端に達すると、糸の張力のバランスが崩れます。すると、たるんだ糸がレスポンスに触れて巻き取られるわけです(Fig.7)

Fig.7
ループ時の糸の状態

ループを安定させるには、ヨーヨーを11時の傾きに維持しろとよく言いますが、わざと傾けた軌道を取ることで、レスポンスとの抵抗を増やし回転を与えやすくリターンしやすい状態を作るわけですね。

Fig.8
ループ時の糸の状態

ハイパーミレニアムなどのコントロールエッジも、抵抗を増やすための工夫のひとつで、ギャップ全体をレスポンスとして働かせています(Fig.8)

コントロールエッジに限らず、積極的に傾きを作ることでボディと糸が触れる状態にすることは、ボディ全体をレスポンスとして機能させるテクニックではないでしょうか?





オフストリングヨーヨーでのルーピング

ヨーヨーと糸が繋がっていないオフストリングヨーヨーで、ルーピングプレイを行うことは可能です。なぜ、そのようなことが出来るのでしょうか?

Fig.9
オフストリング状態でのルーピング

解答としては、オフストリング状態では、糸が伸びきるとすっぽ抜けてしまうので、その前に糸を故意に引いてあげることで、ギャップ内に糸がたるんだ状態を作り出し、リターンさせているのです(Fig.9)

もちろん、かなりのテクニックとセンスが必要です。







様々なレスポンスシステム

レスポンスシステムには、様々な種類があります。ここでは数あるレスポンスシステムを写真入りで紹介します。


スターバースト

20世紀のヨーヨーでは、最もポピュラーなレスポンスのひとつです。ギャップ内のボディに凹凸をつけ、その形状と表面積が増えた分を抵抗として、レスポンス効果を得ています。

Fig.10
ファイヤーボール(ヨメガ)

Fig.11
パトリオット(ヨーヨージャム)

Fig.12
ブラックノヴァ(ヨーヨージャム)

Fig.13
ベンジャミン(ヨーヨージャム)

Fig.14
モンディアル(カメヨー)
糸が切れやすい

ディスクスター

Fig.15
ディスクスターの概念図
タイガーシャークなどで採用されている、スターバーストほど積極的に凹凸をつけず本体を膨らませ、表面積を増やすことで抵抗をつけてレスポンス効果を得ています。

滑りは良いですが、スカりやすいのが欠点です。大げさにかくと Fig.15 のような形になります。






Fig.16
タイガーシャーク(スピンタスティクス)

四つ穴スター

ヨーヨージャム社が初期に採用したスター形状です。滑りは良いですが、スカりやすいのが欠点です。現在流通しているオフストリング専用機種である『アクエリアス』にも採用されています。

Fig.17
スーパースピンファクター(ヨーヨージャム)

コルクスター

ProYo社のヨーヨーで採用されていた、コルク製のシートを貼り付けたものです。レスポンス部分を凹ませボディと同じ高さにしている点は、ある意味レセスの原型といえます。コルクの材質のせいで、使い続けることで削れてしまうという問題もありましたが、比較的扱いやすいとされています。

Fig.18
スタントパイロット(プロヨー)

Fig.19
ドラゴンフライ(ダンカン)
旧名:ターボバンブルビーGT(プロヨー)
※吸収合併により機種名が変更された

ターボディスク

ポケットロケットでの採用が最初だったと記憶していますが、SB-IIの後期型でも採用されています。フリクションステッカーの原型となった、レスポンスの役割を果たす布製のシールです。

当時の人気機種だったレネゲイドに、片面だけターボディスクを貼り付けるというメンテナンスは、滑りが格段に向上し初期のバインド仕様としては流行しました。滑りが割と良く、スカりにくいという特徴があります。

Fig.20
ポケットロケット(トム・クーン)

Fig.21
フリーハンド1・初期ロット(ダンカン)

フリクションステッカー

フリーハンド1で採用された、ゴム製のシール型レスポンスです。両面に貼ると戻りが良すぎるため、片面だけに貼り付ける方法が一般的。21世紀の標準レスポンスの一つです。

Fig.22
ダンカンフリクション・フリーハンドZERO(ダンカン)

Fig.23
ダンカンフリクション・フリーハンド1(ダンカン)

YOリング

ヨーヨージャム社が開発し、シグマブレードから採用されたバインド仕様を強く意識したレスポンスです。摩擦抵抗の強いゴムを本体に埋没させ、バインドしたときだけレスポンスが利いて戻ってくるように作られています。これ以降、ベアリングにオイルを一切差さない、いわゆる「ドライベアリング」のメンテナンスが一般的になりましたが、それ以前は、オイルを差して軸にも抵抗を与えないとなかなか戻りませんでした。21世紀の標準レスポンスの一つです。

ハーフスター(1.5形状)

片面がYOリング、もう片面がスターバーストというハイブリッドなレスポンスです。両面YOリングの、バインドしたときに糸が噛みやすく滑りも悪い、といった欠点を克服すべく、スズキヒロユキ(2004,2005世界大会1A部門チャンプ)が、ナイトムーブズ1(両面スターバースト)とナイトムーブズ2のプロトタイプ版(両面YOリング)を組み合わせて使用したことから始まりました。別名は1.5形状。

滑りと戻り(戻り過ぎない)を両立させたこの形状は、スズキヒロユキの専用モデルであるスピーダーから採用されるようになりました。この場合、ボディを組み替えることで両面スター・両面YOリングといったセッティングも楽しめるので、遊びの幅が広がったといえます。

レセス

ヨーヨーチーム「ダンカンクルー(Duncan Crew)」のタケシが考案した、ヨーヨー本体を削り、フリクションステッカーを本体に埋没させたような形状です。フリクションステッカーの戻りのよさを、バインドさせたときにだけ有効にするメンテナンスとして爆発的に流行しました。実際には旋盤などの高価なツールが必要となるので、実際に手作業で行うのは難しいですが、究極の形状のひとつと言われています。

Fig.24
フリーハンドZERO・レセス改造済み(ダンカン)

レスポンス無し

ボディの材質自体をレスポンスとして使用しているものです。

Fig.25
コブラ(ヘンリース)

番外

固定軸

トランスアクセルでないヨーヨーは、軸自体の抵抗がレスポンスとして作用します(糸が軸にくくりつけられていない状態でも同様です)。

オートリターン

遠心クラッチでトランスアクセルの軸をホールドすることで固定軸に変え、レスポンスとして作用させています。



最後に

実際のリターンはレスポンスだけでなく、オイルやボディ形状、本体との抵抗などさまざまな機械的要素が絡みます。今回はレスポンスのみに注目して記述を進めているので、その点が無視されているように感じられる表現もありますが、レスポンスだけで全てが決定するわけではないことに注意してください。