角運動量とスリープ時間の関係

原文:yama@18
校正:eagle0wl
基礎知識

本稿では、ヨーヨーを投げ下ろした時にヨーヨーに与えられる力(角運動量)と、スリープ時間との関係について論じます。

早速ですが、角運動量Lとスリープ時間Tの関係をグラフ化したものを Fig.1 に示します。

Fig.1
角運動量Lとスリープ時間Tの関係
L:角運動量
T:スリープ時間

角運動量Lは、後から増えることは無く減り続ける一方なので、最終的にはゼロになりスリープは止まります。

グラフの傾きは慣性モーメント・軸周りの摩擦抵抗・空気抵抗など、さまざまな要素で変化しますが、基本的にはヨーヨー個々について一定の傾きを持っています。



長時間のスリープが可能なヨーヨーは?

それでは、長時間のスリープを実現するにはどういったヨーヨーを使えばよいのでしょうか?


慣性モーメントが異なる場合

慣性モーメントとは「物体の回転のしにくさ」、もう少し正確に表現すると「回転運動の変化のしにくさ」を表す量です。これをヨーヨーに置き換えると、慣性モーメントが大きいヨーヨーは「回しにくく、止まりにくい」という性質がある、ということになります。

慣性モーメントが大きければ回転が減りにくくなるので、グラフの傾きは小さくなります。角運動量Lが同じであれば、理論上は慣性モーメントの大きいヨーヨーのほうが長くスリープするわけです (Fig.2) 。そのため、慣性モーメントの大きいヨーヨー、つまり、重くて半径の大きいヨーヨーを使えば、理論上は長時間のスリープが期待できそうです。

Fig.2
慣性モーメントの大小を比較したグラフ

しかし、実際には、慣性モーメントが大きいと最初のエネルギー自体を与えにくいので、同じ力でヨーヨーを投げ下ろしても、初速(=最初の角運動量L)が変わってしまいます(Fig.3)

Fig.3
初速の違いを比較したグラフ

慣性モーメントが2倍になると、エネルギーの与えにくさは2乗になります。その結果、重くて大きいヨーヨーよりも、軽くて半径の小さいヨーヨーのほうが長くスリープするという一見矛盾した現象が起こります(Fig.4)

Fig.4
軽くて半径の小さいヨーヨーのほうが長くスリープする?

実際、2005年12月に開催された東日本大会で15分弱のスリープ時間を叩き出した藤田婦人は、それほど重くなく半径の小さい機種である minimo-tu を使用していました。



半径が異なる場合

慣性モーメントが同じで、半径が異なる場合を比較してみましょう(Fig.5)

Fig.5
慣性モーメントが同じで、半径が異なるグラフ

傾きは変わりませんが、与えられる初速は変わります。半径だけに着目すれば、半径が小さい方が長くスリープするということになります。



実践を考慮すると…

以上より、半径が小さく重量のある「慣性モーメントの小さい」ヨーヨーを使えばいいんじゃないか? と考えるのは早計です。確かに、ただ長く回したいのであれば、この考え方で間違いありません。ですが、実際のプレイにおいてはミスがつきものです。ミスが無くとも、糸を複雑に絡ませたり、ヨーヨーのミゾにのせたりする以上、ヨーヨーの回転に何らかの負荷が加わり続けるでしょう。

プレイ中にミスが起こった場合、慣性モーメントの大きいヨーヨーを使用していれば大きなアドバンテージが生まれます。慣性モーメントが大きいということは「回しにくい」ですが「止まりにくい」ということでもあります。つまり、同じ回転力を損なうミスが発生しても、失うエネルギーを小さく抑えることができるのです(Fig.6)

Fig.6
途中でミスが生じたときのグラフ

実際のプレイにおいては、結果的に慣性モーメントの大きいヨーヨーを使用した方がスリープが伸びることが多いのです。個々の現象だけをとらえると「慣性モーメントの小さい」ヨーヨーを使えばよいという結論になりますが、実践での使用を考慮しただけで全く逆の結論に達することもあるのです。



停止直前の現象

最後に、ヨーヨーの回転が弱まった、停止直前の状態を確認してみましょう。

Fig.7
ヨーヨーの回転が弱まった、停止直前状態に着目したグラフ

停止直前の状態を細かく見ると、ヨーヨーの回転には3つのデッドラインが存在しています。

D1:ジャイロ効果を失うライン

ジャイロ効果で自身を立て直すことができなくなるラインです。コマであれば、回転を維持できなくなって倒れてしまいます。このラインに達してからは、プレイ中の操作が困難になり、ちょっとしたミスでヨーヨーは大きく傾いてしまいます。

D2:角運動量Lが慣性モーメントを下回るライン

角運動量Lが慣性モーメントを下回ると、回転が維持できなくなってしまうため、回転が急激に落ちてしまいます。

D3:角運動量Lが軸抵抗を下回り、回転を失うライン

角運動量Lが軸周りの抵抗(ベアリングの転がり抵抗)を失うと、もう回転を続けることができなくなります。ヨーヨーはここで停止してしまいます。


20世紀のヨーヨーであれば、コマと同様、D1のラインがデッドラインだったでしょう。しかし、近年のヨーヨーは、D1〜D3までの粘りが存在することが大きなアドバンテージとなっています。

ヨーヨーの糸を引いて戻すメンテナンスの場合は、D1の位置で引かないと戻りませんが、バインド仕様のメンテナンスや、引いて戻るメンテナンスでもバインドすることで、D1〜D2の位置までならヨーヨーを引き戻すことが可能です。



参考