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ヨーヨーの形状の考察
原文:yama@18
校正:eagle0wl
はじめに 前章では、物理的な力とヨーヨーの関係を解説しましたが、本章ではヨーヨーの形状について考察します。本章を理解するために必要な基礎知識はすでに紹介しているので、ある程度目を通しておくことをおすすめします。
円形・三角・四角の3つのヨーヨーがあったとします (Fig.1) 。どの形状が一番回りやすいのでしょうか? ヨーヨーの形状は円形がほとんどですが、本当にこの形状がベストなのでしょうか? 検証してみましょう。 三角ヨーヨーの場合 まず、三角ヨーヨーについて考えてみましょう (Fig.2) 。 三角ヨーヨーの慣性モーメント
それぞれの点の慣性モーメントの大小を比較すると (Fig.3) 、 A < B < C となります。 慣性モーメントの小さい点Aの位置の方が、点Cの位置よりずっと回りやすいのです。点Aだけに着目すれば、物理的にはもっと速く回れるはずですが、点B,Cに引っ張られるためうまく回れません。 この形状の場合、全体の慣性モーメントを算出するための回転重心は点Bの位置に来ます。したがって、点Aは点Bを引っ張る、点Cは点Bに引っ張られる状態となるのです (Fig.4) 。
三角ヨーヨーのジャイロ効果 回転が傾いた状態で発生するジャイロ効果について考えて見ましょう。 傾きは同じ位置で、半径が異なる各点でのジャイロ効果に注目します (Fig.5) 。
同じ傾きなのに、元に戻ろうとする力は点Bの方が小さいことがわかります。結果的にどうなるのでしょうか? そう、ブレるのです。 ブレやすいヨーヨーは実践向きではありません。 四角ヨーヨーの場合 重心の半径が多少大きい分、三角ヨーヨーよりはマシといえますが、それでも大した違いはありません (Fig.6) 。
結局、どこでも同じジャイロ効果の得られる円形が、一番安定した形状といえそうです。 重量配分 なぜウエイトは外周寄りがベストなのか 競技レベルの高級機には、金属など比重の高い材質が外周に配置されています。これはジャイロ効果を有効に発揮させる上で「外周にウエイトを集中させ、回転重心の半径を大きくしたほうが良い」という考え方が重要なのです。 それでは、各点での現象を確認してみましょう。 三角ヨーヨーで述べましたが、半径の小さい位置での慣性モーメントは小さい(=回しやすい)です。実際は剛体として繋がっているため一緒に回りますが、太陽を中心にした惑星のイメージで別々に確認してみましょう (Fig.7) 。
点Aが一番進みますが、実際は剛体としてつながっているため、点B,Cを引っ張る形で一緒に回ります。
実際のボディ上での質点A,B,Cの現象 (Fig.8) は以下の通りです。
A:内周に位置する慣性モーメントが最も小さい質点Aは、外周よりも小さな力で回ることができます。しかし、全体の速度は質点Aより遅いため、常に質点B,Cを引っ張る形で回転しています。 B:回転重心にある質点Bは、質点A,Cの真ん中でバランスのとれた位置です。質点Aに引っ張られ、質点Cを引っ張る形で回転しています。 C:外周に位置する慣性モーメントが最も大きい質点Cは、質点A,Bの動きに引っ張られる形で回転しています。 さて、これまで「半径」と「重さ」という単語を何気なく使い続けてきましたが、ここで明確な定義を確認しておきましょう。 重さ 回転時の質点の中心(回転中心ではない)での重量 半径 回転重心の半径
Fig.9, Fig.10 のグラフから、比重の重い金属リムを搭載したほうが、外周に重心が集まりやすいことが分かります。実際の半径の大きさよりも、物体回転時の重心が重要なのです。 金属リムを採用している機種であれば、ボディ本体の構造材質(合成樹脂)より比重の大きい材質がが外周に配置されています。そのため、同形状で質量配分が均質なプラスチック機種より、重心半径が大きくなります。 三角・四角ヨーヨーなどの複雑な形状の場合も、回転重心として考えると円形の仮想回転重心としての質量・半径として考えることができます (Fig.11) (Fig.12) 。
横からの動きで考える ここまでは2次元的なイメージで考えてきましたが、実際のヨーヨーは3次元の物体です。横方向の力も考えてみましょう。真横にしてみると、線を引いた位置に縦方向の重心があります (Fig.13) 。 しかし、大きな物体である以上、ここでも質点の集合であることが分かります (Fig.14) 。
いろんな断面での質点の動きに着目することで、同様の説明が可能です (Fig.15) 。
シリウスはなぜぶれやすいのか さて、2005年末に発売された『シリウス(ヨーヨージャム社)』は、金属リムがボディの大部分を占める高級機であるにもかかわらず、ぶれやすいという評価が相次ぎました。その現象について考察します。 まず、優位に幅の広い金属リムの内周と外周の質点の動きを考えてみましょう。最内周部はプラスチック製なので重量は無視できると考えて、外周のウエイトの最内周部分と最外周部分のジャイロ効果に着目します。 ジャイロ効果については『ジャイロ効果』で説明しましたが、Fig.17 に示す運動エネルギー(赤)に対して回転面の変化(青)が発生した場合、回転面を戻そうとするジャイロ効果(緑)が発生します。外周Aと内周Bでのジャイロ効果を比較すると、内周Bの方が慣性モーメントも実際の回転速度もかなり小さく、結果的にジャイロ効果も小さくなります。外周Aでは、逆にジャイロ効果が大きくなります。
前述したとおり、外周Aと内周Bは剛体として繋がっていますが、距離が大きく離れたところでジャイロ効果が大きく違っているため、アンバランスな状態が発生しやすくなります。 次節『有効幅の効果』でも述べますが、ヨーヨーにおいてはヤジロベエのような安定を保とうとする動きも働きます。これらが合わさった結果、”ぶれ”のような現象として確認できるわけです。ぶれ現象は、回転面が変化したときに生じるので、回転面が安定した状態または再度バランスが取れた状態を作れば、ぶれなくなります。 |
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