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ベアリングのメンテナンス
原文:yama@18
校正:しげぞー、eagle0wl
なぜベアリングの脱脂が必要か ヨーヨーベアリングのメンテナンス方法は、現在では脱脂が主流となっています。 脱脂とは、ジッポオイルやブレーキクリーナーなどの洗浄剤を使って、ベアリング内に封入されている油分を完全に飛ばす(脱脂)ことです (Fig.1) 。これにより、ベアリング内の抵抗を極限まで落とすことができます。
ベアリングは通常オイルを指して使うのが常識とされていますが、ヨーヨーのメンテナンスにおいてはその常識が通用しません。脱脂は、ヨーヨーならではの非常に特徴的なメンテナンスといえます。 ベアリングの”慣らし”は必要か ベアリングの”慣らし”という作業があります。慣らしとは、ベアリングを使い込んでいったり、ミニ四駆などモーターを用いてベアリングを強制的に回転させ「よく回る状態」を作り出す行為を指します。ベアリングのボールを回転摩擦で削るというよりも、プレス加工で成型された保持器の”バリ”を取り、スムースにボールが回転できる状態に調整することが主な目的です。 慣らしは、ベアリングに限らず、オーディオ機器などでも必要とされており、エージング(aging)と呼ばれています。 材質の違い 金属ベアリングの材質も、スチール・ステンレス・セラミックなど様々ですが、スチールベアリングはすべての部品が鉄でできています。ステンレスベアリングは、内輪・外輪もステンレス製です。セラミックベアリングは、ボールの素材のみがセラミックです。 ベアリングの材質によって極端な性能に違いが出てくるということはありませんが、セラミックベアリングや等級(精度のランク)の高い専用ラインで作られるものは、加工手順が数段階余分にかかっている分、高性能であることは確かです。 材質ごとに特徴をまとめてみました。 スチールベアリング 最も一般的な、いわゆる鉄でできたベアリングです。等級の幅も広く安価にて入手可能です。 ステンレスベアリング 材質にステンレスを使用することで、硬度と耐磨耗性、耐腐食性を高めています。 セラミックベアリング ボールのみがセラミック製です。寿命がスチールやステンレスよりも長く、耐磨耗性、耐腐食性は群を抜いています。専用ラインで製造するので、精度もワンランク高くなります。 形状の違い コンケイブベアリング
コンケイブベアリングとは、外周がへこんだ形状になっているベアリングです。糸が中央に寄るようなカーブを加工した金属カバーが装着されています。次節『コンケイブベアリングとは』で詳述します。 ドリルコンケイブ
ドリルコンケイブとは、通常のベアリングの外周をドリルなどで削ってコンケイブ化したものを指します。ベアリングを自ら加工することで、通常のベアリングでもコンケイブベアリングと同等の効果を得ることができますが、スチールベアリングでないと加工できないことが欠点です。 ドリルコンケイブの製作は危険を伴います。必ず自己責任で行ってください。 ステンレスは硬度が格段に高いため、加工にはステンレス専用の特殊な刃が必要です。また、加工自体も非常に困難なため、安全のためにも、ステンレスベアリングへの改造は絶対にやめてください。 シールドはずし シールドはずしとは、ベアリングの側面にかぶせられている、ほこり避けのシールドをはずすことです。すでに、ベアリングの常識を無視した脱脂メンテナンスが一般的なので、回転力を極限まで稼ぐために行うシールドはずしもアリでしょう。事実、シールドをはずして使っているプレイヤーも多いです。 「ベアリングは消耗品である」と割り切ってしまえば、非常識とも思える脱脂メンテナンスも「太く短く使う」という意味では間違いではないでしょう。 ちなみに、シールドを固定しているスナップリングは、針などでこじることで簡単にはずすことができます。 開放型ベアリング
はじめからシールドが存在しない「開放型」と呼ばれるベアリングが、ヨーヨー専門店で取り扱われるようになりました (Fig.3) 。 開放型ベアリングはシールドをはめるスペースが不要となるので、幅を狭くすることができます。薄いので2枚重ねて使ってみましたが、2つのベアリングの抵抗のバランスが悪いのか、支点が2点になって抵抗が上がったのか、アキシャル方向(軸に対して水平方向)の負荷を逃がせないからなのかは不明ですが、かなり回り方が悪かったです。 ベアリングの寿命 オイルなしの状態でベアリングを使い続けると、突然回らなくなってしまうことは良くありますが、以下の原因が考えられます。 1.保持器とベアリングのクリアランス(あそび)が悪くなった
2.ベアリングに入り込んだゴミが詰まった
3.保持器が破損した(これが一番多いらしい)
4.ベアリング内の球にクラック(ひび)が入った(まれに起こる) ジッポオイルやブレーキクリーナーで洗浄しても直らないようであれば、もう復帰の見込みはありません。原因が脱脂したことにあるのは間違いないので、少しでもベアリングを長く使いたいのであれば、わずかでもいいからオイルを差しておくべきでしょう。 また、ベアリング自体は、ラジアル方向(軸に対して垂直方向)の力に強く、アキシャル方向(軸に対して水平方向)に弱い傾向があります (Fig.4) 。ベアリングを扱う場合は、余計な負荷をかけてゆがませることの無いように気をつけましょう。
アンリのメンテナンス方法 ハイパーヨーヨーブームが去った後から本格的にヨーヨーを始めたアンリこと田名見勇樹(2006年全国大会3A部門チャンプ)は、いわゆる後発組の中ではほぼ最短で全国チャンプまで上り詰めています。自称「世界で2番目にスピーダー(機種名)を使いこなす(※1)」彼のメンテナンス方法を紹介しましょう。 彼は、2005年までは決して高級とはいえないヨーヨージャム純正のスチールベアリング(スピーダーにも付属している精度の低いベアリング)を、ドリルコンケイブ化して使用していました。高級なベアリングを入手できなかったのではなく、スチールベアリングの精度の低さ、特にベアリングの”あそび”に着目していたのです。 同じ量のオイルを注入した場合でも、あそびが大きいと戻りが悪くなり、あそびが少ないと戻りが良くなるということは『ベアリングへのオイルの効果』ですでに解説しました。彼は引いて戻すメンテナンスを好んでいますが、彼のヨーヨーでも「プラスティック・ウィップ」(戻りの良いヨーヨーでは難易度が高くなるトリックのひとつ)が可能です。 パーツの精度によって、単に回転力などの性能だけではなくフィーリングまで大きく変わります。そう考えると、むやみに高性能のパーツを揃えるのではなく、自分のスタイルにあったものを選択することも重要になってきます。 ※1
世界で1番スピーダーを使いこなしているのは、2004年・2005年世界大会1A部門チャンプである、”みっきー”こと鈴木裕之。スピーダーは彼のシグネチャーモデル。 ベアリング精度の話 数年前から、ヨーヨー界隈でもベアリングの等級が話題にあがるようになってきました(逆に言うと、数年前までベアリング自体の性能は話題にもならなかった)。ヨーヨー界隈ではベアリングの等級というと「ABEC」が有名ですが、これは「アメリカ軸受製造者団体」が規定したベアリング規格なのです。 日本のJIS規格でもベアリング精度については規定があります。ABECとJIS規格の対比表を Fig.5 に示します。
JIS・ABECともに下にいくほど高精度になります。筆者が調べたところ、一般的にヨーヨーに用いられるベアリングは、ABEC1やABEC3のものが多いようです。 ABEC等級で、どのような違いがあるのかというと、例えば、ベアリング内輪の振れ精度があります (Fig.6) 。
等級が上がるほど回転数あたりのブレが少ないということになります。 ベアリングの性能は高いほど良い? ベアリングの回転数については、2005年世界大会AP部門優勝メンバーであるひっしーが、調査結果をまとめています。 この調査では、モーターで回転を与えることで回転数を調査しています。なぜヨーヨーに取り付けて行わないのか、と思う人もいるかもしれませんが、純粋なベアリングのみの性能を比較するのであれば、妥当な調査方法だと筆者は考えています。 ABEC7クラスの高精度ベアリングは、ハードディスクの読み取り装置のような正確性・高い回転精度が要求されるところや、家電製品で静粛性が求められるところ、さらに超高速回転に耐えられるところなどで使われています。 産業界では、ABEC7クラスの高精度ベアリングを使う場合、シャフト径を太くしてベアリングを圧入し、ガタつかないように工夫しないと充分な性能を発揮することができません。そういう意味では、ベアリングの内側を固定する機構を採用しているヨーヨージャム社は安価にいいシステムをとっていると考えられますし、バイパーのように軸周りをユニット化するというシステムも非常に優れていると考えられます。 インラインスケートでもABEC規格が標準のようですが、ベアリングの等級に関してかなり研究されており、ABEC1でも十分実用に耐えうるため、高精度のものは必要ないというのが大方の合意になっているようです。 たとえば、100%化学合成の高級エンジンオイルをスーパーカブのエンジンに入れても、鉱物油を入れた状態と比べて、飛躍的な性能の変化はありません。もちろん、おまじない+αの結果は得られますが、いきなり超高出力のモンスターエンジンになることはありません。F1マシンのように、すべてを超高精度で作りこみ、そこに超高性能オイルを入れるから、すべてがかみ合って高性能を発揮するわけです。 すっとはいるスペーサー・すっと入るボディに、ABEC7の0.0025mmの高精度ベアリングを入れても、ベアリング本来の性能は発揮できません。 さびの話 一般的なスチールベアリングはよくさびます。少し放っておいたり、素手で触ったりしたらすぐさびが進行します。スチールベアリングの場合は、保護皮膜がなく鉄がむき出しなので、長期保存の際には「保護油膜を切らさない」「乾燥の徹底」が重要です。 なぜステンレスはさびにくいのか しかし、さびにくいと言われているステンレスベアリングでもさびることはあります。それはなぜでしょうか。
まずステンレスとは何なのでしょう。ステンレス鋼とは、鉄に少なくとも10.5%以上のクロムを含有した合金鋼の総称です。ステンレス(Stainless)は「さびない」という意味で、日本でも古くは「さびない鋼」とか「不銹鋼」という名で呼ばれていました。最近では「ステンレス鋼」にほぼ統一されています。 鉄にクロムを添加すると、クロムが酸素と結合して鋼の表面に薄い保護皮膜(酸化皮膜)を生成します。この不動態皮膜がサビやよごれの進行を防ぎます (Fig.7) 。また、この不動態皮膜は100万分の3mm程度のごく薄いものですが、大変強靭で、一度壊れても周囲に酸素があれば自動的に再生する機能を持っています (Fig.8) 。
ステンレスでもさびる理由 名前の示す通り、ステンレス鋼は一般の鋼に比較すると極めてすぐれた耐腐食性を持つ材料ですが、特定の環境・使用条件の下ではさびることがあります。ではどうしてさびるのでしょう。実はステンレスのさびには2種類あります。 もらいさび
もらいさびとは、ステンレス素材を加工する事によって表面の組織が破壊されて、均一な不導態化皮膜が形成されなかった部分に、大気中の有害成分や鉄粉等が付着したり、他金属との組立てによる電位差によりさびが発生する事をいいます (Fig.9) 。 ステンレス自身のさび ステンレス自身の腐食によるさびは、主に『塩化物イオン』の作用で発生します。例えば、塩分の付着量が多くなった部分は酸素濃度が低下して陽極となり、周辺部分が陰極となって一種の電池状態が形成されます。そのため、不導態化皮膜が破壊されて、合金の鉄部分にさびが進行していきます (Fig.10) 。
もらいさびの場合は、初期段階であれば表面だけなので比較的簡単に除去できます。しかし、ステンレス内部にサビが進行してしまったり、ステンレス自体のさびが出てきてしまった場合になると、除去は相当難しくなります。したがって「定期的に表面を清掃する」「素手で触らない」「保管時は除湿剤などを用意する」といった予防策が必要になるのです。 ステンレス素材について ステンレスと一口に言っても、目的によって様々な素材が使い分けられています。 ベアリングの素材としては、主にクロムを18%含んだマルテンサイト系のSUS440が使われているようです(NTN社のカタログに記述されているステンレス系の素材は440だけでした)。これは耐摩耗性が高く軸受けに広く使われていますが、耐腐食性は低いのが特徴です。 よって、一般に多く使われているオーステナイト系ステンレス(SUN304, SUS316)と比べると少々さびやすいようです。日本ステンレス協会のウェブサイトを参考にしてください。 ステンレスは磁石につかない? 「ステンレスは磁石にくっつかない」という理由で、ステンレスベアリングとスチールベアリングの判別に磁石を使おうとする人がいるようですが、SUS440には磁化する性質があります。 実際のところ、ステンレスベアリングもほとんどが磁石にくっつきます。これは、ボール加工中の圧力や焼入れなどによって磁化するということで、特別な消磁処理をしない限り、わずかに磁力を帯びたままとなるようです。消磁処理したベアリングは、通常の生産ラインに乗るような製品ではないので、かなり高価になるようです。 参考 秋葉原駅から少し歩いた所にあるベアリング屋です。通販可能。 日産商会でベアリングを購入するときの参考になります。 ベアリングの技術解説形式番号の見方や、シールドの種類などが詳しく載っています。シールドを外したいときなどは参考にしてください。 ステンレスについての解説があります。 |
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